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終わらない恋
一目惚れ…ではない。
一度会っただけだけど。
【俺】
売れっ子俳優
36歳
キリッとした切れ長の目
短髪で髪色は黒
ゆるいパーマと黒縁薄いブルーのレンズをしたサングラスがトレードマーク
17歳の時に映画のオーディションを受け合格
次の年にその映画で新人賞を受賞し、その後も映画やドラマで大活躍
今や主演を張る俳優になっていた
今日もドラマの撮影現場へ
目の雰囲気で一見キツそうに見えがちだが、実は人懐っこい性格で喋り方と声が優しく、周りの共演者やスタッフから愛されている
【彼女】
テレビに出ないシンガーソングライター
35歳
人見知りなのでテレビ出演はNG
153センチで小柄な女性
個性的なファッションと赤髪のショートヘアでくるくるパーマがトレードマーク
幼少期、物心ついた時から彼女は養護施設で過ごしていた。
0歳〜高校生三年生まで
歌うことが大好きでいつも気づいたら歌を歌っていた。
施設のみんながその歌を優しい顔で聴いていた。
歌い終わった後に「本当に歌がうまいね」と言ってくれていたのが、この施設の園長。
園長は白髪まじりの短髪で赤縁の細いメガネをかけ、腰の低い、でも話し方はハキハキしていて思った事は全て口にするタイプ。
子どもが大好きな70を過ぎていそうなおばあさん。
おばあさんと一緒に施設で働いているのは娘で副園長をしている。
50歳手前といったところだろうか。
髪の毛はいつもひとつに結んでいて元気いっぱい、よく喋るおせっかいおばさん。
彼女の将来の夢は「歌手」
そんな彼女をいつも笑顔で見つめているのは同じ施設で育った恋人。
施設のみんな公認の仲だった。
彼女はバイトメインの傍ら路上ライブやライブハウスでの弾き語りをしている時にあるおじさんに声をかけられた。
彼女の作る一曲一曲の歌詞は明るく前向きだ。
が、所々胸が締め付けられるような物悲しさが伝わってくる。
それは誰もが一度は聴いた事のある曲で歌詞に共感し、胸に響くものがある。
何処か懐かしさを感じ、人肌が恋しくなるメロディーが何とも言えない。
出会い
俺が出演するドラマの主題歌を彼女が担当した事で二人は出会う。
打ち上げの時に彼女がドラマのプロデューサーに呼ばれて参加した。
60代半ばの無精髭が特徴のプロデューサーと彼女の付き合いはかれこれ10年と言った所だろうか。
彼女が25歳の時にライブハウスで歌っていた時に声をかけられたのがキッカケだった。
「あるおじさん」の正体だ。
「俺」と「彼女」はもちろんお互いがお互いの存在を知っている。
ひとつ異なる事といえば、メディア露出がない彼女を見たのが初めてということ。
美人すぎず可愛いすぎず…
大きな口を開けて笑う顔…
誰に対しても態度を変えず愛嬌がある…
でも時々ふと悲しい表情をする…
俺にはそう見えたんだ…
だから気になって仕方なかった。
会話
食事の席での二人の会話は最初の挨拶の
「初めまして」この一言。
打ち上げ後、
「今度ご飯行かないですか?」
あっ、と思ったが時すでに遅し、気付いたら彼女を誘っていた。
彼女は少し困った表情で
「私、好きな人がいるので。」
あ…、秒でフラれた…。
「好きな人って事はお付き合いはまだって事ですか?」
瞬時に「そこ聞くのか?しつこい男だと思ったか?」
彼女は口をつむんで、首を横にかたむけ何も言いたくなさそうな、苦笑いからの無言で誘いを断った。
ほんの数秒のやりとり…でも嫌そうではなかった…ように見えなくもなかった。
彼の目には。
次の日、彼は彼女について調べていた。
便利な世の中だ。
気になった事は検索すれば何でも出てくる。
なぜ調べているのかわからない。
昨日初めて会っただけ、少しの時間食事をしただけ…なのに、確実に彼の頭の中には常に彼女が存在している。
そう言えば彼女には恋の噂が一切ない。
「大好きな人がいます。
その人はもうこの世にいないけど、今でも私の中で生きています。
そりゃ今まで素敵だな、って思った人はいました。でもその人以上に好きになる自信がありません…怖いのかもしれないですね…もうあんな辛い苦しい思いしたくないって…幸せになっちゃいけないんじゃないかって…
…私は誰ともお付き合いしないし、結婚もしません…すみません」
彼女は淡々と話し続けた。
終わらない恋.始まらない恋
彼女は大好きだった彼を病気で亡くしていたんだ。
「ただ一緒にいるだけじゃダメですか?
その…誰かと一緒に過ごしたい時ってあるじゃないですか…食事の時、家に一人でいる時、仕事で凹んだ時、喜びを共用したい時…
いつか気が変わるかもしれないじゃないですか…ただ…そばに居たいだけです…」
ドラマでイケメン俳優が言うような言葉が次から次へと…止まらなかった…止められなかった…
売れっ子俳優が何で私なんか…
夢なら覚めてほしい…
でも覚めないで…矛盾だらけでもうパニック
自分の気持ちがわからないとはこういう事か…
これは嬉しい感情なのか…
こんな気持ちはいつぶりだろう…
終わってはいない恋があるのに恋を始めてもいいのだろうか…。
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