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しかし餃子耳だけでは、長年武道をやってきた証にしかならない。
本日練習を終えてからこのパン屋に寄った、という証拠にはならないのだ。
「その耳を見て、柔道またはレスリングなどの武道の心得がある方なのだなと思いました。そして柔道の練習後だと思ったのは、首と足首に見えた痣です」
「えっ!」
自分では痣が出来ていることに、凛弥は気が付いていなかった。確かにジーンズの裾から覗く足首は、外側も内側も赤くなっている。
首にもついているのか。そういえば今日、恭弥に締め技を食らったのを凛弥は思い出す。
――あいつ、しつこくかけやがって。
「赤いのでまだ出来たてでしょう。次第に青くなってくるはずです。足首の外側、内側両方にできているので、転倒やぶつけたことによる負傷の可能性は低いのではないかな、と。小外刈りや小内刈りで丁度相手の足が当たる位置ですよね。そして、首の痣は締め技を食らった後だとすると――」
「……正解です」
凛弥は苦笑を浮かべた。あまりにも完璧な推理だった。
「柔道のこと、どうしてそんなにお詳しいのですか? まさか経験者ですか?」
「いえそういうわけでは。私、人間観察とか、謎解きが好きなんです。それでいろいろな雑学を知らないうちに吸収しているみたいで。時々気持ち悪がられてしまうのですか」
苦笑いで加賀見は言う。
少し話しただけなのに、推理力が高く、雑学の知識も豊富なことが見て取れた。
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