248人が本棚に入れています
本棚に追加
/222ページ
知的でミステリアスで美しい外見、少しの情報だけで人の事情を暴いてしまう高い知能。それらによって、常連客は彼女を「魔女」と呼称しているのだろう。
「いや、完敗です。『魔女』と言われているらしいのでどんなもんかと吹っ掛けてみましたが……。完膚なきまでにやられました。本当に魔法が使えるみたいですね」
「ああ。そう言われてらしいですけね。本当に、たいしたことじゃないんですよ。お客様とお話がてら、いろいろ想像しているだけなんです。しかし、今回はありがとうございます」
「えっ?」
不意にお礼を言われて、凛弥は虚を衝かれる。感謝されるようなことをしたつもりはないのだが。
「いえ、とても楽しい謎解きタイムだったので。できればまた、お願いしたいところです。……ふふ」
とても楽しそうに、無邪気に加賀見は微笑む。本当に心底満足いく時間を過ごせたらしい。
一瞬だけ、おもちゃに夢中になった子供のような、純粋さが垣間見えた気がした。
知識豊かなパン屋の魔女が放ったそれは、あっさりと凛弥の心臓を捉えてしまう。
――あ、もう無理だ。なんだこれ。こんなの、無理だろう。
麦田凛弥、二十歳。人生で初めての一目惚れを、吉祥寺ハモニカ横丁外れのパン屋で、不意に食らってしまう。
なんて恐ろしい魔女なのだろう。凛弥はあっさりと、その術中にはまってしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!