ベルガモットの花嫁

36/65
235人が本棚に入れています
本棚に追加
/222ページ
「葵が見つかった時のことを考えたらもちろん不安ですが……。まあ、真中が実力行使に出てきたら速攻で警察を呼びますし。手っ取り早く捕まえようと考えるなら、かえっていいかもしれません。正直、ダラダラとこの状況が続くのは精神的にきついものがあるんですよ。……もう何年も彼には悩まされていますから」 「……そっか、真中と関わって長いですもんね」  常に家族を狙っている人物が存在している状況は確かに気が休まらないだろう。  確かに、多少の危険を冒しても早く解決したいという思いが生まれてもおかしくない。  もちろんそれでも、葵が何らかの被害を受けるのを阻止するのは第一だろうけれど。 「とりあえず、今後の葵の居場所は剛おじさんになんとかしてもらうことにします」 「そうですね、それが良さそうです」  そう言った直後、カウンター奥の店の電話が鳴った。  「はい、ベーカリー・ソルシエールです」ときりりとした声で加賀見は出たが、電話の向こうの声を聞くなり「ああ、そうなの」と気安い口調へと変わる。 「わかったわよ、ちょっと待っててね」  電話を切った加賀見は、困ったように微笑んだ。 「どなたからです?」 「厨房にいる葵からでした。お腹がすいたからパンがいくつか欲しいって」 「ああ……そうなんですか」  腹がすくのは仕方がないが、真中が近くにいるかもしれないこの場所に到着するなりパンを食べることを所望するとは。  やはり葵はどこか呑気な人なんだなと凛弥は思う。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!