薔薇色の未来

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『明日はイベント。労働センターの大ホール。10時開場だけど、間に合うかな』  プラムプラムがそんな投稿をしたのは、一週間後だった。その間、プラムプラムは、相変わらず近くのカフェの料理写真や、服装などを投稿していた。  労働センターとは、主に経済活動の支援を目的とした公共施設で、そのための各種団体が入居するだけでなく、貸しホールや貸し会議室があり、各種イベントが行われる。  翌日豊嗣は、手持ちの服の中で、一番小綺麗なものを選んで家を出た。服を選んでいた所為で少し遅くなった上、乗り合わせた電車に体調不良者が出たことで、遅延した。そのため、労働センターに着いたのは、10時を少し回った時刻だった。  慌てて大ホールに入る。幸い、入場料は無料だった。  豊嗣は、香世に会うことしか考えていなかったため、イベントの看板も、周囲の人間もよく見ていなかった。  客席は既に照明が落とされて薄暗い。香世を探そうと、周囲を見回しながら、ゆっくり通路を歩く。 「おい、兄ちゃん。ここ空いてるぞ」  真ん中を少し過ぎた辺りで、前方の座席から男性に声を掛けられた。一目で鍛えられたものと分かる筋肉が目を引く。 「あ、いや……僕は……」 「何だ、遠慮するな。兄ちゃん、初心者だろ。ここからだとよく見えるぞ」  香世を探さなければならない。だから、こんなところに座るわけにはいかない。そう思って断ろうとした時だった。  開演を知らせるブザーが鳴った。 「ほら、郁弥(いくや)さんがそう言ってるし、もうすぐ始まる。そこに立っていられると、正直迷惑なんだよ」  後ろから、別の男性に声を掛けられる。  最初に声を掛けた男性同様の鍛えられた筋肉に加え、見上げる程高い背。  豊嗣はその迫力に負け、大人しく勧められた席に座った。 「二番、キレてるよ」 「五番、バリバリ」 「三番、厚みがすごいね」 「七番、肩メロン」 「八番、仕上がってるね」 「四番、二頭がチョモランマ」  壇上には、これでもかと筋肉を鍛え上げた男達が並び、ポーズを決めて自慢の肉体を披露している。  客席からは、意味の解らない声援が大声で飛び交い、豊嗣は思わず耳を塞ぎたくなった。しかし、自身の両隣に座る男性達の視線が気になり、耳を塞ぐこともできない。  イベントとはボディビルの大会だったのかと、豊嗣は内心でため息を吐いた。  香世の好みは、こういう男達なのだろうかと、絶望的な気分になる。  しかし、香世の好みが筋肉ならば、もしかすると、どこかのジムに通っているのかもしれない。今までのSNSにそんな情報は無かったが、行きつけのカフェの近くかもしれない。帰宅したら調べてみようと、決意を新たにした。
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