薔薇色の未来

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「あと10セットっ」 「は、はい……」  それが、どうしてこうなったのだろうか。  豊嗣は、郁弥の指示に返事しながら、考える。  一体、どこで間違えたのだろうか。  どうして自分は、未だにプラチナ・スポーツジムで、ランニングマシンの上を走っているのだろうか。 「「「いらっしゃいませ~」」」  ジムが終わると、郁弥に有無を言わさず、ラブローズに連れて行かれる。 「トヨちゃんの顔で、この筋肉なんて嬉しい~」  トヨくんから、いつの間にかトヨちゃんと呼ぶようになったミリアが、身体を触る。  ミリアによれば、豊嗣は顔は好みだが、体格は細身より筋肉質な方がいいらしい。日に日に筋肉がついていく豊嗣の身体に、誰よりも喜んでいるのが、ミリアだった。  豊嗣は相変わらず、碌に話は出来ない。  郁弥とキャスト達の話を聞き、二言三言話せばいい方だ。  それでも、ここでの時間を退屈に思ったことはない。接客のプロであるミリア達の、話術のお陰だろう。  気が付けば、豊嗣の心から、香世がいなくなっていた。 「兄さん、ありがとう。助かったわ」 「可愛い妹のためなら、大したことじゃない」  郁弥の自宅。香世がコーヒーを飲みながら言った。郁弥は香世の兄である。両親が離婚し、それぞれ父と母に引き取られたため、苗字が異なる。  道に落ちたピザを見つけた日、香世は、便利屋を営む兄に相談した。 「ストーカーかもしれない」  郁弥は、あり得ない落としものを撮影させ、それが投稿されたSNSを探すことで、ターゲットのアカウントを特定する手法があると言った。 「そんな……でも、確かに最近、視線を感じることがあるわ」  そう言って怯える香世に、郁弥は自分に任せろと言った。 「まずは、本当にストーカーかどうか、確かめよう」  そう言って郁弥は、相手の罠に掛かったように見せかけるため、あえて香世のSNSへ投稿させた。  新規に取得したアカウントでは、相手を警戒させるかもしれない。そこで香世は、新規のアカウントを取得し、SNS上の友人達には、アカウントを作り直した旨のメッセージを個別に送った。そうして、元々のアカウントにピザの写真を投稿した。
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