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1.プロローグーmother to childー
ーゴールドー
「お母ちゃん、歩がまたキャンディー取った。」
真珠の泣き声が聞こえる。
「僕取ってないもーんだ。真珠のウソつき。」
歩が口をモゴモゴ言わせながら言い返している。
「ウソだよ、歩ウソついたー。あたしが食べようとしたら、ドンってした。落ちたキャンディー取ったじゃない。」
真珠は泣きながら、歩にぶつかられた様を再現している。涙と鼻水まみれで。
「歩、真珠が言ってるのが本当なの?それとも食べてないって言ってるあんたの方が正しいの?」
私は腰に手を当てて仁王立ちになって3歳と8歳を見下ろす。気圧されたように歩が下を向く。
「歩、人間にとって一番大事なのは何だと思う?」
「人間ってなあに?」
と真珠が聞く。
「人のことよ、真珠や歩や母ちゃんや父ちゃんのこと。」
真珠は納得したように頷いている。
「で、歩、あんた何が大切だと思う?」
「食べ物?」
「あんたは…」
思わず吹き出してしまった。
「うん、食べ物は大事。体が大きくなるのにね、心が楽しくなるためにもね。でも、人間が生きて行く時に心に大事に持っておかなきゃいけないことがあるの。それはね、正直ってことよ。正直ってわかる?」
「ほんとのことを言うこと?」
「そうよ、その通り。でもそれには勇気がいるの。」
「勇気ってなあに?」
真珠が興味津々と言ったていで聞いてくる。
「怖い時や恥ずかしい時に踏ん張ること。」
「ふうーん。」
これは真珠には少し難しかったようだ。歩は神妙に聞いている。
「いい?覚えておきなさいよ。人間はどんな時も正直でいなきゃいけない。わかった、二人とも?」
「はーい。」
と二人は答える。私はエプロンのポケットからキャンディーを二つ出して二人に渡した。
正直が大事って、ほんとのことをいつも言うのなんて簡単じゃないか、そんなの。なんで母ちゃんはわざわざあんなに気張って言うんだろう?それにやっぱり、生きて行くなら食べ物だろ?一番大事なのは。
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