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「忠告しておくけど、やめたほうがいいよ」平然として、リアさんは言います。
「あなたがさ、大変な奏者だってのは分かる。でもね、〈守護者〉の力って要するに天候制御。あんまり近接戦闘、白兵戦には向かないんじゃない? 雷槌を別にすれば、あと使える技はカマイタチによる真空斬くらいかな。対するにあたしは、白兵戦最強の〈闘士の赤〉い花に喰われた女だよ。加うるに、如何に放逐の身とは言え、習い覚えた秘伝・秘術の類いまで捨てたわけじゃない。〈愚者の灰〉はともかく〈刑死者の紫〉。幾多の英雄・豪傑を生き腐れの地獄に堕としてきた、イグナトゥス秘伝の呪殺法、味わってみたいとは思わないでしょ」
にやりと笑って、「うぬぼれ抜きで言うけど、千に一つも、あなたの勝ちはないよ」
今度、破顔したのはイツツアさんでした。
「おそらく、あなたの言うとおりで間違いないでしょう。しかし」
そうイツツアさんが叫ぶと同時に、彼女の背後に控えていた八人の兵士たちが、リアさんを取り囲んだのです。
「へえ?」
リアさんは笑い出しそうになりました。けれど、そのとき、天から光が降ったのです。
稲光でなく、日差しでした。頭上の黒雲に大きな渦が産まれ、渦の中央の雲が途切れたのです。同時にその周囲の雲が凄まじい勢いで降下を始める……。
「あ」
その意味にリアさんが気づいたときには、もう遅かった。
イツツアさんの奏術が産んだ、突風の壁がリアさんとわたしたちを切り離していたのです。そしてリアさんの背後を取ったと見せた三人の兵士も、こちらに残っている……。
言う通り、リアさんはイツツアさんより強いのかも知れません。けれど例えそうだとしても、リアさんがイツツアさんを倒して、壁を突破するにはそれなりの時間がかかる。その間に三人が。
「こんちくー」
懸命にリアさんが放った火球は風の壁に阻まれ、すり抜けたのは一弾だけ。火球は破裂して、とにかく一人は吹き飛ばしましたが、後の二人は倒れさえしませんでした。
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