〈守護者〉

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 どうしよう?  そう思ったとき、わたしの体は宙に浮いていました。  アヌイさんです。アヌイさんがわたしを掴み上げたんです。そのまま脇に手挟んで、彼は走り出しました。振り回されて、悲鳴が出そうなのを堪えて、わたしは背後を見ました。  無傷だった二人が追ってきます。  一人はアヌイさんと同じくらいの大男、もう一人は兜に白の羽飾りを付けた女性います。大男のほうがずっと近く、彼は体を開くようにすると、右腕を大きく後ろへ引きました。 「あぶないっ!」  わたしが叫んでしまったのは、大男が戦斧を投げつけるつもりだと、解ったからです。  でも死人のアヌイさんは、わたしの叫びを理解できなかった。戦斧は放たれ、そのままで走り続けたアヌイさんは、右の腿裏にその直撃を受けたのです。  世界がひっくり返って。  アヌイさんは肘と伸ばした腕で、精一杯わたしをかばってくれたのですが、それでもわたしは、石ころ混じりの砂の上に投げ出され、長い距離を転がりました。  全身の痛覚が麻痺しているようでしたが、目は回ります。頭を振って、わたしが顔を上げたときには、大男はすでに投げつけた戦斧に手を掛けていました。そして片足をほとんど切断されてしまったアヌイさんは、なんとか体を起こし、大男に向かおうとしたところでした。  拾い上げざま、大男は戦斧をそのまま振り上げて、ためらいもなく、振り下ろしました。  今度の一撃はアヌイさんの左腕を肘のところで切り落とし、勢いの付いた戦斧はそれでも止まらず、アヌイさんの鎖骨を砕いて、胸郭にめり込んだのです。  でも、そのことが大男には却って災いしました。あまりに深くめり込んだ戦斧など、捨てれば良かったのです。けれど引き抜こうと、こだわったことが、彼にすきを生みました。  膝立ちの、無理な体勢から、それでもアヌイさんは右拳を突き上げたのです。死人は自分の身体をいたわらないのでしょう。だからこそ出せる、弾みでアヌイさん自身の身体も健が切れ、骨が砕けるような、あまりにも凄まじい一撃でした。兜の隙間を突いたそれは顎の骨を砕き、拳に植え込まれた釘の先端は脳底を突き破ったはずです。  中枢を破壊された大男の身体は激しく引きつり、それが意味するところは死です。わたしは……。  けれどアヌイさんはそのときにはもう、次の相手と相対していました。羽根飾りの人です。  彼女の武器は大剣でした。  最初の一振りで、アヌイさんの残った右腕の手首から先を切り落としてしまった彼女は、もう勝ったつもりになったのでしょう。袈裟斬りを十文字に浴びせかけました。  けれど、そんなことでは死人はあまり弱りません。アヌイさんは跳ね起きるようにして、短くなった腕を伸ばし、抱きかかえるようにして、彼女を自分の胸に叩きつけたのです。  それだけなら羽飾りの人は、難を逃れ得たかも知れません。けれども、皮肉なことに、そこで帆車の戦士たちが放った弩の矢が、アヌイさんの身体を貫いていました。  アヌイさんの胸から突き出ていた鏃で目をえぐられ、悲鳴を上げながら、彼女はのけぞってしまったです。当然、彼女の喉笛は無防備にむき出しになります。アヌイさんはそこへ歯を立てたのです。  羽飾りの人は絶叫して、もがきました。でもアヌイさんは逃さず、短い腕で締め上げて、ついに気道を噛み裂いたのでしょう。くぐもった不吉な音がして、泡だった血潮が溢れ、羽飾りの人の身体から力が失せました。  その身体が投げ出されて、砂の上に転がりました。朱に染まった顔の中で、白目が虚ろに輝き、それを覗き込んでしまったわたしは、口を掌で覆いました。悲鳴を押し殺すには、そうするしかなかったのです。  自分がこめかみに傷を追ったことに気づいたのは、そのときです。口を覆った指先が頬を濡らす液体と、傷口に触れたからです。さっき投げ出されたときに負ったのでしょう。不思議に痛みは感じなかったのですが、そんなことを気にしている余裕はもうありませんでした。  3人目の戦士が目の前だったからです。
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