9人が本棚に入れています
本棚に追加
リアさんの声でした。
黒の外套は砂まみれでズタズタでしたが、それだけです。長大な鎌を柄の先端を片手で掴んで、長く突き出すようにし、頬には苦笑のようなものを浮かべています。
弾かれたように、少年兵はリアさんに向き直りました。
「みんなは? イツツア様は?」
「死者三名ってとこかな。イツツアさんはねえ、止めは刺さなかったから。まあ、花人一如はあの程度じゃくたばらないと思う。死んでたらごめん」
「くっ……」彼は息を呑みました。
「それで四人目になる? こう見えても、あたしは殺生はあんまり好きじゃないんだよ。少年」
「俺はリウロだ。少年なんて呼ぶな!」
「へえ。でも少年は元気なんだし。勝ち目のない戦いを挑むくらいなら、生き残った仲間の手当でもしてやった方が功徳だと思うよ」
「……」
「それとも、あたしに勝ち目があるなんて本気で思う?」
「…………さない」
「へ?」
「……サリナ姫の……マグ王には渡さない」
噛み締めた歯の間から漏れた、彼の言葉は囁きに近く、わたしには半分ほどしか聞こえませんでした。何を渡したくないというのでしょう? お姫様の遺品でしょうか。
ぽと。
わたしの頬から、地面に何かが滴り落ちたのは、そのときです。
まだ傷から血が。
そう思ったわたしは、半ば無意識に頬を拭い、指先を見ました。
でも。
それは。
血ではありませんでした。
動かなくなったアヌイさんを、わたしは見ました。
彼の身体の傷口から垂れている、どす黒い液体。わたしの指を濡らしているのは、それと同じでした。
胸元を縛る紐を引きちぎって、わたしは覗き込みました。
傷口がありました。
縫い合わせた傷口、小鳥の卵のように物体を埋め込んだ痕が、わたしの胸にもはっきりと刻まれていました。
最初のコメントを投稿しよう!