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「……っ」思わず、剣を振り上げかけたリウロくんを、わたしは制しました。
「待ってください。――続きを」
「だけど間抜け王の兵隊は、やっぱり間抜けで、肝心の姫君を殺してしまった。それで」
「――わたしを造った」
「そう。アヌイを見れば分かるけど、単なるデクでも手続き記憶程度なら、生前から引き継げる。でも」
花奏能力までとなると、人格――魂――がどうしても必要になる。けれど死によって人格は決定的に失われる。だから残存している人格の欠片を〈サルベージ〉して、再構築する。魂のまがい物をでっち上げる。
わたしはその――まがい物。
「……なんですね」
リアさんの返事は聞こえませんでした。不意に目の前が真っ暗になったからです。気がつくと、わたしはリウロくんに抱きかかえられていました。
「大丈夫か?」
「……ええ」わたしは目をそらして、「死人も気が遠くなったりするんですね」
抱え込むようにした鎌を上に長く突き出して、リアさんは地面にしゃがみこんでいました。
「少年。あんたの役割は魔石を砕いて、お姫様の亡骸を取り戻すことじゃなかったの」
「うるさい」
「それでうまくいったんですか?」尋ねてみました。「わたしの花奏力は?」
「やってみたら」
言われて、わたしは空を見上げました。イツツアさんが呼んだ黒雲が残って、空を覆っています。黒い〈花〉の印象を思い浮かべると、わたしを中心に風が渦を巻いたようでした。
そうして風が雲を吹き散らし、ポッカリと青空がわたしの頭上に広がったのです。
わたしの青空でした。
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