宮廷

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宮廷

 マグ王の「動く宮廷」をわたしたちが目にしてのは、それから蒸気車で一刻ほど走ったあとのことでした。ちょうど蒸気車が小高い丘の上を走っていたので、五十騎ほどの竜騎兵を引き連れた、その異様な姿を、わたしたちは上から眺める事ができました。  上から見るそれは一辺がおおよそ120〈メートル〉ほどの、巨大な四角錐でした。色は漆黒、光沢のある黒です。その上に金で龍や虎の見事な図が描かれていました。  そんなものが動いているのです。しかもそのなめらかな動きは、それが宙に浮いていることを示しています。  思わず、ため息が出ました。 「あれは一体、どんな仕組みで動いているんです? 〈天使〉……〈船〉が使っていたという、〈ケイバーライト〉ですか?」 「だったら、よかったんだけどねぇ」  うんざりしたような口調の意味がわからず、わたしはリアさんの顔を見返しました。  丘を下ったところで蒸気車は、竜騎兵に囲まれてしまいました。リアさんが癇癪を起こしそうになるくらい、なかなか話が通りませんでしたが、ようやく車は宮殿に近づくことを許されました。  宮殿は膝下くらいの高さに浮き、並足の馬程度の速さで動いています。  四角錐は正方形の土台の上に載っていましたが、土台の厚みは、大人の男性の上背を越すほどで、側面は柱のような太い木材の格子組です。  まるで牢屋のよう、と思ったとき、わたしは異常なことに気づきました。  臭いのです。  とてつもないほどの悪臭が辺りには立ち込めていました。死体であるわたしの身体も、嗅いでみれば、ひどい匂いなのかも知れませんが、到底比ではありません。  しかも匂いは宮殿に近づくほどに酷くなるのです。  どうして、と思い、もしや、と思って、格子の隙間から宮殿の地下を、わたしは覗き込みました。  格子の隙間から差し込む、僅かな陽の光では様子はよくわかりません。ちょうど墓石のような、縦長の箱が整然と並んでいることだけはわかります。  箱の上には、これは形が不揃いな、丸いものがそれぞれに一個ずつ載っています。なんだろう? と思って、見つめたとき、暗がりの中で、それが動きました。  えっ? と見返したとき、それが何なのか、わたしは理解してしまった。  人の頭、でした。
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