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隠密たちはともかく、護衛の二人は長剣の柄に手を掛ける。けれど、その剣が抜かれることはなかった。そのときすでに、大人の腕よりも長い刃渡りを持った大鎌が、彼ら二人の首を切り飛ばしていたからだ。
膝から落ちた二体の死者が、崩れ落ちる前の束の間に、首の切断面から血煙を吹き上げて、辺が赤く霞む。
軽装の鎧が首までは覆っていなかったとは言え、人の首二つ、骨ごとぶった斬って、青みがかった鏡面に、微かに曇りを生じただけの黒刃は、おそらくヴェラスケス鋼の十二番。人の腕など触れただけで切り落とす、いわゆる〈死者の大鎌〉である。
一体どこから取り出したのか、それにさえ戸惑うほどの巨大な武器を、右手一本でかざしたリアは、更に大きく弧を描かせると肩に担いだ。
「……こ、こんなことをして」厚化粧にひびが入るほど、大きく目を見開いて、ルルキアが掠れた声を絞り出す。「無、無事で済むと」
「うーん。今の二人に関しては任務中の殉職でいいかな。隠密にも死人は出てることだし」
「わ、わたくしはちがうぞ。こ、こ、このような下衆どもと一緒にするな」
「じゃあ、こんなのはどう?」
言いざま、左手をリアは前に突き出す。人差し指を立てる。と、花の〈イマージュ〉がその指の先に生まれた。
言うまでもなく、〈愚者の灰色〉と呼ばれる青灰色の花である。
この〈花〉がほんとうは何であるのかを、この世界の住人は知らない。
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