宮廷

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 死人でも吐き気を覚えるんだ、わたしはそう知りました。  ろくに日も差さない宮殿の地下には、顔だけ出して、小さな箱に閉じ込められた人間たちが、無数に並んでいたのです。悪臭は彼らの体臭でした。 「この宮殿はね、あの連中が花奏力で動かしてるんだ」  どこか倦んだような口調で、リアさんが言いました。  領内の貧民から見込みの有りそうな子供を攫うんじゃなくて、買い付けるんだ、とリアさんは続けました。  そうして手足を切り取って箱に閉じ込め、闇の中では不要な目も潰して、只々宮殿を動かす〈エンジン〉の部品でしかない存在に、彼らを作り変えてしまうのだそうです。〈エンジン〉となった彼らは、食餌と稀に褒美として与えられる〈オピウム〉による酩酊だけを楽しみに、宮殿を動かし続けるのです。 「こんなことやってるから国が衰えるんだ。普通は花奏力は喜ばしいもので、伸ばそうとする。でもこの国では花奏力をみんな隠そうとする。下手に能力があると、こんな目に合わされかねないから。だから、この国では奏者が異様に少ない。兵士でさえろくに奏者がいない。花奏力は国の礎なのにね」 「どうして、そんなひどいことができるんですか?」格子の方を、わたしは見ることもできませんした。 「同族だと思ってないんだろうね」とリアさん。「鳥とか獣とかなら、同じような目に合わせて、涼しい顔をしてる連中、そうすると肝がうまくなるからとか言って、獣を土に埋めて育てる奴らとか、普通にいるでしょ」  わたしは唇を噛みました。 「動物相手でも、そんなのはひどい」 「うん、わかる。あんたならそう思うよね。でも世の中はいろいろなんだ」
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