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そんな話をしているうちに、一刻以上も時が過ぎたでしょうか。ようやく宮殿に上がることが許されました。リアさんは大鎌を取り上げられ、わたしも身体を弄られました。
その間に階段が降りてきました。
宮殿の傾斜面には一つだけ、階梯が刻まれていて、朱塗りの欄干が付いています。階梯のいちばん下の部分は折り返されて、段が噛合い、三角の突起のようになっていたのが伸ばされて、下段が地面にまでは届いたのです。
見上げると、階梯を少し登ったあたりに、恐ろしくかさばる衣装を着た人物が立って、わたしたちを見下ろしていました。金糸銀糸で絵画に近いような、複雑な刺繍を施した、豪華な打掛のようなものを何重にも着込んでいて、身体はほとんど釣り鐘型になっています。なのに冠の高さを入れても、わたしほどの上背しかありません。冠の下の顔は真っ白でぺたんこで、渦巻のような文様が描かれています。目は糸のよう、鼻は孔だけが開いていて、口は見えません。正直男か、女の人なのかも判りませんでした。
「やあ。プク」
リアさんは声を掛けましたが、その人は見下すような目つきで、わたしたちを睨めつけただけで、何も言わずに背を向け、よちよちと階段を登っていきました。
「あの人、プクさんっていうんですか?」
「正確にはプク1号かな」
「1号?」
「2号と3号がいてさ」
見上げると、傾斜した側壁に開いた、切り欠きのような開口部が、階段を登りきった先に見えていました。先にたったプクさんは、開口を塞ぐように二列に並んだ兵士たちの間を、振り向きもせずに通り抜けていきます。
睥睨するような兵士たちの視線の中を、わたしたちも後に続きました。
その先にあったのは、ぼんやりとした輝きに包まれた、広間のような空間です。近づくと、暖気とむせ返るような甘い香の匂いが押し寄せてきます。
どうして、こんなに暖かくて、明るいんだろう?
そう考えたのは一瞬でした。地下で見た墓石のようなものが目に入ったからです。彼らはここでは光と熱を供給しているのです。
五色の糸で縫い閉じられた目蓋と、耳介を切り落とされているので、朱色の練り物で塞がれているのがはっきりと見える耳孔。そして取っ手のように結い上げられた髪。
下で見たもので覚悟ができていなければ、吐き気を覚えたことでしょう。
粘りつくように香の匂いでも誤魔化せない異臭が、彼らの周囲には漂っていました。
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