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「お言葉を伝える」
またプクさんです。けれども、もうくだくだしい描写は止めにしましょう。
端的に王がわたしに言ったことは、雨を降らせろ、でした。
彼の王土は、この土地は、あまりに貧しい。これを例えばティーレン王国のように、緑なす恵みの地に変えたい。故に雨を降らせよ。
王はそう言ったのです。
わたしの返事は、できません、でした。
もちろん〈黒の掟〉というものはあります。天の理法が定めるところに逆らって、雨を降らせることはそれが許しません。けれど、そういうことではないのです。
雨を降らせるだけで、荒れ地を恵みの地に変えることはできないのです。
干魃なら、降るべき雨が降らないために荒れた土地なら、雨で蘇らせることはできます。
けれど、この地はもとより少雨の地です。植生も作物もそれに適応している。無理に雨など降らせれば、逆に腐ってしまいます。
それどころか、表土の流失が起きる可能性が高い。もとより僅かしかない肥えた土の層が、大雨に流されてしまうかも知れないのです。
そうなったらおしまいです。この地にはほんとうに何も育たない、不毛の地になってしまうでしょう。
〈黒のインターフェース〉を使って、国を富ませるなら、方法をもっと突き詰めて考えなければならない。
わたしはそんなふうに説いたのです。
けれど。
「お言葉を伝える」わたしの言葉を遮ったプクさんは、なぜだか薄笑いを浮かべていました。
「足はいらぬようだな、との仰せである」
何? と考えることもできませんした。気がつけば、黒ずくめの人たちに、わたしは取り囲まれ、〈インターフェース〉を取り上げられて、椅子用のようなものに座らされて、両腕、首、胴を頑丈そうな金具で固定されていました。
すると今度は灰色の衣をまとった人たちが現れたのです。彼らの手にしたノコギリを見て、わたしは何が起きているのかを悟りました。だから歯を食いしばって、覚悟を決めたのです。
端的に言います。
わたしの両足は膝上で切り落とされました。
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