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裏切りの代価
決断にも迷いはありませんでした。
リウロくんの帆車に対し、護衛の竜騎兵たちが群がっていきます。一瞬でもためらえば、彼は殺される。竜騎兵に向かって、わたしは雷槌を打ち下ろしました。
直撃は狙わず、ただ落雷の稲光と轟音が、馬たちを怯えさせてくれればいい。そんなつもりだったのですが、直撃はなくとも、稲妻は地を走り、跳ね回って、思った以上の兵士をなぎ倒しました。それから言うことを聞かなくなった動物は、騎士たちを片端から投げ出していきます。
その混乱の最中を、リウロくんの帆車はすり抜けます。それでも宮殿は動いています。簡単にはには取り付けない。
それならと、わたしは宮殿を雷撃の標的にしました。
足を止めるつもりなので、下層部を狙う、特大の一撃を、と思った刹那、黒い釣鐘草の〈花〉が咲き乱れ、渦を巻いてわたしを取り囲みました。
そして次の一瞬。
耳を聾する轟音と、目もくらむほどの閃光。
思わずしがみついた〈インターフェース〉は、よほど強力な揚力制御を行っているのでしょう、びくともしませんでしたが、それ以外の宮殿はまるで嵐の小舟です。何もかもが吹き飛んで、灯りも消え、暗闇の中、甲高い悲鳴が交錯します。
そうして大きく斜めに傾いだまま、宮殿は動きを止めました。
「この下衆! 賊め!」
それなのにプクさんの怒声が聞こえたのは、あまりにも時間が経ってからです。王の判断を仰いでいたのでしょう。
「御下命である。取り押さえよ」
ああ、やっぱり。
考える時間が十分あったわたしは、〈インターフェース〉を抱え込むと、空気の流れを操作し、切り欠きの手前に陰圧を作り出しました。ほとんど真空です。
「ひぃやあああーーっ」
真空の吸引力は突風が吹く、などと言う程度ではありませんでした。
風というより、濁流か流砂のような圧力が背後から押し寄せ、わたしを取り囲んでいたプクさんや黒服、兵士や何もかもを切り欠きめがけて押し流します。
〈インターフェース〉にしがみついていたわたしを除く全てが、一瞬で空の高みを舞っていました。空中に吸い出されたプクさんは、驚愕に引き歪んだ顔をわたしに向け、そのまま落ちていきました。
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