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――上げそうになる叫びを噛み殺して。自分が何をしたのか、何をしているのかは、今は考えない。今は、リウロくんと自分のことだけを考える。今は。
そのとき、リウロくんの帆車が宮殿の斜面を一気に駆け上がるのが見えました。わたしが生み出した強風が反転する瞬間を利用し、そのまま宙に舞って、切り欠きに突っ込みます。
「乗れ!」
腕を差し出して、リウロくんは叫びました。
でも。
わたしは飛べない。足がないから。
さすがに、そんなことは予想していなかったのでしょう。リウロくんの目が見開かれて、一瞬動きが止まります。
「あぶない」
混乱から立ち直った兵士の一人が、長剣で彼に切りかかります。一撃をかい潜ったリウロくんは、引き抜いた短剣を甲冑の隙間に突き立てます。
「こっ…………があ」
わめきながら兵士は長剣を振り回し、それはかわしたものの、すでに二人目が背後に迫っていました。その一撃も辛うじてすり抜けます。でも装甲に覆われた前腕がこめかみをかすめて、リウロくんは吹き飛びました。
体重差と体格差がありすぎる上に数的不利。勝ち目なんかありません。
兵士は長剣を振りかぶりました。
「やめて!」
けれど兵士が剣を振り下ろすことはありませんでした。代わって、彼は悲鳴を上げました。悲鳴の音階とともに、甲冑の色が変わっていきます。白煙が上がります。甲冑は緋色から山吹色へ、更には白光を放ち始めて、ついに飴のように溶け崩れました。
融けた鋼を浴びせかけられたに等しい兵士は、絶叫しながら、膝を折り、同時に炎を上げ、まるで松明のように燃え上がりました。
「少年。手助けは余計だったかしらん?」
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