人を殺したということ

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人を殺したということ

上着のチャックを急いで閉めた。 中のTシャツにべっとりと大量の血がついていることに気づいたからだ。 周囲の人間の視線をうかがってみたが、幸い、誰も僕のTシャツについた血に気づいている様子はなかった。 誰も僕に注意を払っていないみたいだ。 よかった。 人間というのは、基本的に他人のことなんてそれほど気にしていない。 それなのに僕らは、一体どういうわけか、他人の目を必要以上に気にして、小さくなって生きているのだ。 今はまだ誰も僕の犯した殺人のことを知らないかもしれないが、ニュースで報道されるのも、もう時間の問題だ。 警察が本気を出せば、きっと2,3日で現場付近のことなんて調べ尽くされてしまう。 それまでに、できるだけ遠くに、遠くに行くのだ。 行った先でどうするのか? そんなことは考えない。考えられない。怖いのだ。 なんだか体がブルブルと震える。 いけない、動揺しては。 骨の髄から凍りついてしまったみたいに、もう全く震えが止まらない。 震えを止めようと力を入れると、震えは加速する。 そうだよな、僕は本当に人を殺してしまったんだよな。
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