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僕はどこに向かっているのだろう?
僕は電車に乗っている。
血で真っ赤に染まったナイフを鞄に抱えて。
今日、人を殺した。
顔も名前も知らない女だった。
今朝、ナイフを片手に家を飛び出した。
人を殺すという衝動に突き動かされたのだ。
とにかく誰かを破壊したいという凶暴な欲望が、僕の中で急激に湧き上がってきた。
近所の適当なアパートに入り、片っ端からドアノブを回した。
鍵が開いている部屋を見つけると、迷わず中に入った。
若い大学生くらいの女と目が合った。
彼女は目を丸くして、僕を見ていた。
時間差があって、僕が勝手に侵入したことに気づいた女は、大きな悲鳴を上げた。
僕はもう既に冷静さを失っていて、ナイフを持って猛獣のように女に襲いかかった。
僕が女をナイフで突き刺そうと近づくと、女は激しく抵抗した。
女がここまで激しく暴れ回るのを見るのも、また、ここまで全力で女を襲うのも僕にとっては初めてだ。
そのまましばらくもみ合いになっていた。
やがて、奇妙な感覚に襲われた。
暴れ回る互いの荒い息の音が激しく入り乱れていたのが、急に鎮まった。
時が止まったような静寂が部屋を支配した。
ナイフが床に落ちた。
生温かい血が大量に吹くように溢れ出てきて、僕の手にべっとりとついた。
密接していた彼女の体が僕から離れた。
女は恐怖で大きく目を見開いたまま呆然としていた。
僕は急いでナイフを拾い上げると、部屋を飛び出した。
出る間際、玄関口で振り向いて部屋を見ると、血が廊下にまで流れ込んでいるのが見えた。
僕は恐怖と焦燥から逃げるようにして、アパートの階段を駆け下りた。
衝撃に突き動かされて人を殺してしまった。
まずい。早く逃げなくては。
ここにいては見つかってしまう。
警察が来るのも時間の問題だ。
とにかく、遠くに遠くに逃げないといけない。
僕は近くの駅に駆け込み、一番先に着いた電車に乗り込んだ。
向かう先なんて決まっていない。
とにかく遠くに逃げるのだ。
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