カラン、コロン、コロロロロン

2/5
前へ
/5ページ
次へ
「……ない」 サーッと血の気が引いていくのを感じる。 身体がどんどん冷えていく。 「落ち着け落ち着け落ち着け」 そんな風に自分を落ち着かせても、出てこないものは出てこない。 ──事の発端は、行きつけのオイルトリートメントの店に行って、アクセサリーを全て外したことにある。折角の結婚指輪がベトベトになるのが嫌で、いつもいちいち外していた。 今日も同じ。 「本日はいかがでした?」 「ああ、もう最高でした」 眠気が襲ってきながらも、気持ちよかった余韻に浸りながら、着替えた。いつものように次の予約を取って、たまには洋服でも買って帰ろうかと店をあとにして気づいた。 左手の薬指がスースーする。違和感があって、指輪の位置が異なっているのかと思って、直そうと右手を伸ばす。そこでやっと、自身に降りかかっている事態に気がついた。 そこにあるはずの指輪が……ない。 サーッと血の気が引いていく。多分、私の顔は真っ青だ。来た道を戻って、地面を見つめながら、指輪を探す。 でも、ない。 シルバーに輝いている、小さいダイヤが3つ並んだ指輪がない。 いよいよ気が気でなくなって、店に行った。 「えっ……。少々お待ち下さい!」 店の人もただ事じゃないと、店の中を探してくれたけど、全く見つからない。 なんで!? いや、たしか、ボケッとしながら指輪をはめた。しかも、指輪はピッタリ過ぎて、ちゃんとはめるのに時間がかかる。適当にはめてしまった気もする。 だから、落としているとしたら、ベッドの下や店のなかが一番、濃厚なのだ。 いや、待って。 そういえば、私、店を出る前にトイレに入った……。 急いでトイレに入って探してみる。 でも、見つからない。 ……。 息をするのもつらい。 生きた心地がしない。 私のなかで一つの可能性を見出だしていた。 便器の中を見つめる。 いや、まさか。 落ちたら、気づくでしょ。 でも、さっきまでボケーッとしてたよね? え、そんなことある?? そんな、やらかし方……。 結局見つからない。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加