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「……ない」
サーッと血の気が引いていくのを感じる。
身体がどんどん冷えていく。
「落ち着け落ち着け落ち着け」
そんな風に自分を落ち着かせても、出てこないものは出てこない。
──事の発端は、行きつけのオイルトリートメントの店に行って、アクセサリーを全て外したことにある。折角の結婚指輪がベトベトになるのが嫌で、いつもいちいち外していた。
今日も同じ。
「本日はいかがでした?」
「ああ、もう最高でした」
眠気が襲ってきながらも、気持ちよかった余韻に浸りながら、着替えた。いつものように次の予約を取って、たまには洋服でも買って帰ろうかと店をあとにして気づいた。
左手の薬指がスースーする。違和感があって、指輪の位置が異なっているのかと思って、直そうと右手を伸ばす。そこでやっと、自身に降りかかっている事態に気がついた。
そこにあるはずの指輪が……ない。
サーッと血の気が引いていく。多分、私の顔は真っ青だ。来た道を戻って、地面を見つめながら、指輪を探す。
でも、ない。
シルバーに輝いている、小さいダイヤが3つ並んだ指輪がない。
いよいよ気が気でなくなって、店に行った。
「えっ……。少々お待ち下さい!」
店の人もただ事じゃないと、店の中を探してくれたけど、全く見つからない。
なんで!?
いや、たしか、ボケッとしながら指輪をはめた。しかも、指輪はピッタリ過ぎて、ちゃんとはめるのに時間がかかる。適当にはめてしまった気もする。
だから、落としているとしたら、ベッドの下や店のなかが一番、濃厚なのだ。
いや、待って。
そういえば、私、店を出る前にトイレに入った……。
急いでトイレに入って探してみる。
でも、見つからない。
……。
息をするのもつらい。
生きた心地がしない。
私のなかで一つの可能性を見出だしていた。
便器の中を見つめる。
いや、まさか。
落ちたら、気づくでしょ。
でも、さっきまでボケーッとしてたよね?
え、そんなことある??
そんな、やらかし方……。
結局見つからない。
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