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瞳の色がいつもより明るい。彼女の眼は中心にある瞳孔は真っ黒なのに、虹彩はかなり茶色が強い。それは日本人には稀な明るい色合いで、更に外側の白目との境目などは、角度によっては赤褐色で縁取りを描く。
初対面の人には、よくカラーコンタクトをしているのかと間違われた。
朱里は明るめの瞳の色合いが嫌いだった。自分が慕う兄達との違いを突きつけられるようで嫌なのだ。
幼い頃から、瞳のおかげでどれほど嫌な思いをしてきたのかも数え切れない。
それでも、麒一や麟華が綺麗な眼だと言って褒めてくれるから、その瞬間だけは価値があるような気がしていた。
「何、これ」
けれど、今朝の眼は何事だろうか。
朱里は恐る恐る、洗面台の鏡に映った自分の顔に手を伸ばした。
ひやりとした質感。鏡をこすって見ても、瞳の色は変わらない。
真っ黒な瞳孔を抱くのは、金色に輝く虹彩。白目との境界には、夕焼けを思わせる鮮やかな朱。
朱里は強く瞳を閉じて、開く。ゆっくりとした瞬きを数回繰り返した。
少しずつ、色合いが戻っているような気がする。
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