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プロローグ:1 夢と現(ゆめとうつつ)
鬼が追いかけてくる。
彼らに捕まってはいけない。梢から漏れる淡い夜光が追手を照らし出す。人影の不自然な輪郭が、少しずつ露になった。
彼女は逃れるために、夢中で走っていた。あるかなしかの光に包まれた夜道には見覚えがあるはずなのに、ここがどこなのか判らない。迷路に入り込んだように、行く当てもなく走っている。
(どこへ行けば、いいの)
ふと過ぎる想い。掠めてゆく孤独。
考えないようにしても、絶望はじわじわと彼女の中を満たしてゆく。
彼女は振り返って追手を確かめた。
蠢く暗い影。
彼らは人ではない。ぞわぞわと密度を増していく暗黒。まるで呼び寄せられたかのように集まって、追いかけてくる。
鬼と成り果てたもの。
懸命に走っているのに、彼らとの距離は縮まっている。このままでは追いつかれてしまうだろう。
もっと早く走らなければ捕まってしまう。判っていても、既に息は上がっている。胸が張り裂けそうなくらいに苦しい。
足取りは重たくなる一方だ。
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