プロローグ:1 夢と現(ゆめとうつつ)

2/5
前へ
/1627ページ
次へ
 群れを成して追ってくる鬼は、呼吸をしているのかどうかも判らない。生気のない顔をしているのに、動きは敏捷(びんしょう)だった。  彼らの眼差しは闇のように暗く、別世界を映しているようにも思えた。  手を伸ばせば届きそうな距離まで、気配が近づいている。  捕まってしまう。  彼女は恐ろしさに(すく)んで、目を閉じた。  誰かが、自分の腕をつかむのと同時だった。 「――っ!」  がくりと体が震えて、朱里(あかり)は目覚めた。蒼い闇の中で、自分の鼓動が早鐘のように繰り返している。 暗がりに沈んでいるのは、見慣れた自分の部屋だった。  寝台に横たわったまま、幾度か深呼吸をする。動悸のやわらいだ胸に手を当てて、瞳を閉じた。 「はぁ」  自分を落ち着かせるために、朱里はわざと溜息をつく。大袈裟に寝返りを打ってから、ばさりと肌布団を蹴り上げた。  鬼に追われる夢。どうしてそんな夢を見てしまったのかは、心当たりがあった。  胸の内にあるのは、憂慮(ゆうりょ)と恐れ。 「やっぱり、どう考えても嫌だ」
/1627ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加