89人が本棚に入れています
本棚に追加
群れを成して追ってくる鬼は、呼吸をしているのかどうかも判らない。生気のない顔をしているのに、動きは敏捷だった。
彼らの眼差しは闇のように暗く、別世界を映しているようにも思えた。
手を伸ばせば届きそうな距離まで、気配が近づいている。
捕まってしまう。
彼女は恐ろしさに竦んで、目を閉じた。
誰かが、自分の腕をつかむのと同時だった。
「――っ!」
がくりと体が震えて、朱里は目覚めた。蒼い闇の中で、自分の鼓動が早鐘のように繰り返している。 暗がりに沈んでいるのは、見慣れた自分の部屋だった。
寝台に横たわったまま、幾度か深呼吸をする。動悸のやわらいだ胸に手を当てて、瞳を閉じた。
「はぁ」
自分を落ち着かせるために、朱里はわざと溜息をつく。大袈裟に寝返りを打ってから、ばさりと肌布団を蹴り上げた。
鬼に追われる夢。どうしてそんな夢を見てしまったのかは、心当たりがあった。
胸の内にあるのは、憂慮と恐れ。
「やっぱり、どう考えても嫌だ」
最初のコメントを投稿しよう!