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枕を抱えてごろごろと寝返りを打っていると、室内を包む闇がほのかに薄明を含みはじめた。
もうすぐ夜が明けるのだろう。
同級生の好奇心。荒唐無稽な計画。
それは、学院に伝わる鬼の噂を確かめるというものだった。学院内に設けられた立ち入り禁止区域。夜中に敷地にもぐり込むだけでも、大した校則違反なのだ。
それに輪をかけて禁を犯す。立ち入りを禁じられた場所に踏み込むというのだ。
学院に棲む鬼の巣窟。そんな噂がある場所に夜中に忍び込むなんて、正気の沙汰とは思えない。朱里としては、ひたすら勘弁してほしかった。
(鬼なんている筈がない)
噂は噂でしかない。この世の中にそんな生き物がいてたまるか、と思う。
朱里は学院の傍らに建てられた住居に住んでいる。十七年間暮らしてきて、鬼を見かけた経験などない。絶対に有り得ない。
架空の存在についてはどうでも良かった。
夜中の学院内をさまようことが、朱里にとってはひたすら恐怖だった。けれど、同級生達にとってはその恐ろしさが刺激的なのだろう。
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