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プロローグ:2 瞳
朱里がぼんやりと寝間着のままダイニングに入ると、姉の麟華がキッチンに向かって立っていた。自分なりに早起きしたつもりだが、兄の姿は見えない。食卓には朝食の名残があった。既に邸宅を出た後なのだろう。
寝不足のせいで、身体がだるい。
スリッパも履かず、裸足のままペタペタとフローリングを横切ろうとすると、気配に気付いた姉が弾かれたように振り返った。
「うわぉ。朱里、びっくりした。どうしたの? こんな朝早くから」
「うん。何となく目が覚めたから」
姉である麟華は目を丸くして、まじまじと朱里を見た。
「えー? めっずらしい。あなた、ついに彼氏でも出来たの? 恋患い?」
「あのね、朝から何を訳の判らないこと言ってるの」
「だって、いつも起こしても、ぎりぎりまで寝ているくせに」
麟華は楽しげに笑っている。高校二年の朱里より一回り年上の姉だった。知的で格好の良い見た目に似合わず、明るくて可愛らしい気性の持ち主だ。
密かに朱里にとっては、自慢の姉だった。真っ直ぐに伸ばされた黒髪が、麟華が笑うと艶やかに揺れる。
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