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「だけど、私は朱里が彼氏を作るのは反対。朱里にはね、運命的な出会いをしてほしいのよ」
うっとりと、麟華は目を輝かせている。
「麟華、お願いだから、良い年をして恥ずかしいことを堂々と言わないで」
「全然、恥ずかしくないわよ」
麟華の突き抜けた調子は、早朝でも損なわれることがない。
変わらず朗らかで、明るくて元気だった。朝が弱い朱里には驚異的なくらいだ。
「あー、寝不足でだるい」
目をこする妹をきょとんと見つめてから、麟華は首を傾げる。
「どうしたの?」
「くだらないことを考えていたら、眠れなかっただけ」
姉の麟華は朱里の通う学院の高等部で、美術の教師をやっているのだ。そんな麟華に、まさか学級内の企てを話すわけにもいかない。
朱里は寝不足の理由を適当につけて、リビングの大きなソファに沈み込んだ。
「麒一ちゃんは?」
姿の見えない兄の所在を尋ねると、麟華からは予想通りの返答があった。
「もう大学へ行ったわよ」
麟華の双子の兄である麒一。
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