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青色の朝。
雨が止んで、私はようやく軒下から出ることができた。
人も車も、よく見ればちゃんと通っていた。家までの道は騒がしいくらいで、なんだか不思議だった。
家に着き、まだ誰も帰っていない静かな廊下を通り過ぎて、自分の部屋に入る。そこそこ大きいデスクに、日記帳を開いておいた。そのまま、すぐ傍に放ってあったシャーペンで書き込んでいく。何を書くかはもう、決めていた。
しばらくして書き上がったそれを、そっと閉じる。適当に入れ直していた栞ももう一度確認してから、それを閉じた。
ふと、首を傾げる。
――どこかに置いておくべきだろうか――。
だが、すぐにそれは必要ないかもしれない、と思い直した。そう思った理由は、ある。
私はそれを、普段使いしているカバンの中にしまい込んで、部屋を出た。ふわり、と自分の周りを漂う空気が少し、軽いものになったようだった。
気付けばもう、半年が経っていた。感覚的には全然そんな風に思えないのに。時が経つのは早いものだ。
あれから私は、特に変わらない日常を私は過ごしていた。でも、以前とは少し違う。
身に着けているのはスーツに近い服装で、仕事用にと用意した黒い腕時計。髪は結い上げ、メイクもナチュラルに施す。ヒールは、少しだけ高いものを選んで。
堂々とした足取りを意識して、学校に向かう。着くなり図書室の中でもさらに個室となっている場所へ入り込んで、パソコンを起動した。
開くのはリモートアプリ。
すぐに画面が切り替わって、映ったのはたくさんの顔。
「――それではそろそろ時間ですので、始めさせていただきますね~」
女性の声が聞こえてきて、慌ててイヤホンをつないだ。
「本日は私共の企業説明会にお集まりいただき、ありがとうございます――」
明るい声に、ふう、と軽くため息を吐いた。いい人そうだ。
彼女はゆっくりと自己紹介を始めた。
「――さて、まず自己紹介させていただきますね。
私は沢田と言います。趣味は読書。ああそうだ。最近のエピソードで面白かったのは『拾われ日記帳』ってタイトルの日記を拾ったことです――」
ずいぶん鮮やかな、青色の朝のことだった。
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