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4、さよなら
次の日から、里座さんは来なかった。
そもそも学級の名簿にもなくなっていたし、誰一人として気にしていなかった。
まるで最初からいなかったみたいに。
周りの反応にはじめは驚いていた俺も、次第に理解するようになった。
あれは夢だったのだ。
それからいつもどおり授業を受けて掃除をして、下校の時間になってまたあの川沿いに来た。
昨日と同じ茜色の空。少し冷たい風。
そしてーー。
「あ……」
そこに桜並木はなかった。
無残な切り株がずらりと並び、昨日までは見えなかった青空やだだっ広い川が目に飛び込んできた。
第一にしょぼくなったな、と思った。
我ながら酷いコメントだ。
でも、しょぼいと思うのも無理ない。
あんなに見頃だったのに、今切らなくてもよかったのではないか。
そうでなくても、もう少し待てばよかったのに。
この景色に目がなれてくると、幼い頃から慣れ親しんできた風景が記憶からさえ消えてしまいそうで、今度は怖くなった。
写真でも撮っておけばよかったな。
俺は川沿いの黒いフェンスに肘をついて、ただの川となってしまった日常風景を眺めた。
それからふと足元に目線を落とすと、
「これって……」
そこには切り株があって、更にその上に見覚えのある青いキラキラしたものがのっていた。
拾い上げて確認すると、やはり昨日里座さんにあげたチャームであることがわかる。
どういうことだ。
里座さんのことは全部夢だったはずなのに、本来リュックについているべきチャームがここにあるなんて。
俺が目を見張っていると、急に空気が軽く暖かくなってきて、視線の先に茶色のローファーが見えた。
ハッとして顔を上げる。
でも当然のことながらそこには誰もいなかった。確かにいた気がしたのに。
そこでようやく俺はあることに気づいた。
「彼女は……桜だったんだな」
それは、桜が綺麗な日だった。
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