あなたにロマンスひとしずく

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OLの姉が突如、英語の勉強を始めた。 「理央ー。あんたの英語の参考書、貸してくれない?」 ラジオを聴きながら受験勉強に勤しんでいた私は、扉越しの声に顔を上げた。 姉は確か学生時代、英語の成績はボロボロだったはずだ。大学受験用の参考書は難しいだろうから、英検準二級の参考書でも貸しておこう。 スマホから流していたラジオを一旦止めて、参考書を片手に扉を開けた。 「はい。とりあえず、これ貸すね」 「……私のこと、馬鹿にしてない?このレベルくらい解けるって」 「まあいいから、それからやってみなよ。それにしても、お姉ちゃんが英語の勉強始めるなんてどういう風の吹き回し?」 姉は長いまつげをパチパチさせると、なぜか誇らしげに胸を張った。 「内緒!!」 スキップするように自分の部屋に戻る姿を、首を傾げながら見送る。 二十四歳であるにも関わらず、まだ実家暮らしの姉。家事はせず、だからといってスキルアップのための勉強もせず。そして彼氏には半年前に振られていた。まあどうせ、彼氏はまたすぐに作るだろう。 ……内緒、か。隠しごとを作られてしまった。 何はともあれ、勉強をする意欲があるのはいいことだろう。 ラジオを再びつけると英会話レッスンのCMをやっていた。タイムリーだなあ、とちょっと可笑しくなりながら机に向き合った。
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