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「やあ」、僕がドイツ兵にカップを差し出すと、ラム酒を注ぐ。お礼に僕が煙草を2本渡すと、ドイツ兵が集まりだし煙草の減った代わりに、僕のポケットは子供みたいにお菓子で一杯になった。
不思議な感覚だ。僕たちは昨日まで殺し合っていたというのに。
ラム酒は喉を通り僕のかじかんだ心を温かくした。
「君、年は幾つ?」、流暢な英語のドイツ兵はイギリスで暮らした事があるという。
「18です」、世間話をしながらお互い家族の写真を見せ合い、肩を抱き聖歌を歌った。皆、友達のように気さくな奴らばかりだった。
午後からは戦死した仲間を手厚く葬った。
このわずかな中立地帯を奪い合い、僕たちが殺したドイツ兵がいて、彼らに殺されたイギリス兵もいる。
時計の針は戻らない。なかったことにはならないんだ。
「見ろよ」、隣で作業していたドイツ兵が僕の肩を叩く。
驚いた。
荒野の夕暮れにたくさんの鳥が羽ばたいていた。穏やかなこの日を待っていたのか。
だが、日没とともに僕たちはまた敵同士だ。
彼の顔に憎しみはない。
ただ悲しそうだった。
こんな風に戦場で出会うべきじゃなかった、と。
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