第57話 明日、消えるかもしれないこの光を  (テーマ『クリスマス』)

6/7
前へ
/73ページ
次へ
 ……奇跡は終わった。  新年が近づき、夜もまばらに銃声は響く。  しかし、弾は互いの塹壕には飛んでこなかった。 「Danke!(ありがとう)」、去り際に長く固い握手をしたその手で、僕は引き金をひいた。  彼らがそうするように、星のない空に向かって、何度も。  せめて煙草とお菓子がなくなるまでの間は、僕は人を愛していよう。  しかし俄にパラパラと音がして、見上げた僕の顔を冷たい痛みが走る。  灰色の雲から星屑のような氷の粒がひどく降ってきて、友となり得た僕たちをさらに苦しめるのだった。凍てついた絶望の季節は、そこまで迫っていた。  耐えるようにコートの襟を立て、塹壕の中、僕は残り少ない煙草に火をつける。  燃えながらいつかは、僕たちの胸の奥から消えてゆく光だけど……。  僕は懸命に、てのひらで守った。    <了>
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加