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……奇跡は終わった。
新年が近づき、夜もまばらに銃声は響く。
しかし、弾は互いの塹壕には飛んでこなかった。
「Danke!(ありがとう)」、去り際に長く固い握手をしたその手で、僕は引き金をひいた。
彼らがそうするように、星のない空に向かって、何度も。
せめて煙草とお菓子がなくなるまでの間は、僕は人を愛していよう。
しかし俄にパラパラと音がして、見上げた僕の顔を冷たい痛みが走る。
灰色の雲から星屑のような氷の粒がひどく降ってきて、友となり得た僕たちをさらに苦しめるのだった。凍てついた絶望の季節は、そこまで迫っていた。
耐えるようにコートの襟を立て、塹壕の中、僕は残り少ない煙草に火をつける。
燃えながらいつかは、僕たちの胸の奥から消えてゆく光だけど……。
僕は懸命に、てのひらで守った。
<了>
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