3人が本棚に入れています
本棚に追加
けれどぼくは笑ったよ。
葉山さんが幸せなら、僕も幸せだ。
我ながら、満点の笑顔だったろう。
5分間のパントマイムが、こんなにもぼくを強くしたんだ。それは嘘偽りなく葉山さんのおかげだった。
ぼくは彼女に握手を求める。
葉山さん。
僕の胸から恋の棘が落ちた。
そう思ったときだ。
葉山さんの温かい両手が、ふわりとぼくの手を包む。
廊下の淡いライトが、白い輪郭を天使のように照らす中、上気した頬が赤く染まり、葉山さんをいつもより大人びて見せた。
ゴメンナサイも、アリガトウの言葉もない代わりに、葉山さんの温度が、ぼくの冷たい手に伝わった。
一緒に過ごした時間に、真新しい女の子の感情が上乗せされていく。
そんな大それた想像はしたことがないので、ぼくが金魚みたいに口をパクパクさせていると、彼女は恥ずかしそうに廊下の奥に消えてしまった。
その帰り道、嬉しすぎて、最速の新記録を出したんじゃないだろうか?
徒歩5分から、遠のいた彼女の背中。
けれど心の距離は0に近づいた、今なら言える。
ありったけの気持ちを込めた独り言の台詞を。
「……ぼくは、君が大好きだ!」
<了>
最初のコメントを投稿しよう!