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少女は首を傾げたまま男に問いかける。
「むしろ、何で人を殺しちゃいけないの?」
鳥肌の立つような冷たい笑顔だった。
形の良い唇が、歪む。嘲笑うように。
「死にたい人を殺すのが悪いこと? 自分で望んで死ぬんだから。自殺も他殺も変わらないわ」
そう語る少女の手にはカッターナイフ。
鉛のような輝きを持つ刃を男に向ける。
「私ね、命は平等ではないと思う。生物は必ず死ぬけれど、その重さ、命の価値は違う。生まれたときから決まっているのよ。命の価値は。だからみんな死にたがる」
闇の底のように暗く、感情のない2つの瞳。
「私は殺したい。人が死んでいく様を近くで見ていたい。生きていたくない人なら、殺しちゃっても良いでしょう。それの何が悪いの?」
ゆっくりと、少女が男に詰め寄る。
カッターは喉元に突きつけ、刃先が皮膚にふれた。
「私は何も悪くない。悪いのだとすれば、私を認めない世界の方だわ」
カッターナイフの刃先が男の喉を捉える。
少女だと油断していた男は抵抗するより早く、首にカッターナイフを突き立てられると力いっぱい引き裂かれた。
溢れる赤黒い液体で、少女の手が染められていく。
ドロリとした赤で染まりながら、少女は恍惚に震える。
生臭い鉄錆の香り。
動かなくなった男の体。
少女は男の匂いをまとったまま、夜の町に消えていった。
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