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口付け
「おい」
俺が振り返るとそいつはビクっとして止まった。
驚いたそいつを見て俺も驚いた。
日本人じゃない…
特に顔も隠してない普通の出立ちのそいつは、色白で目鼻立ちのくっきりとした俺と同じくらいの背丈の少年だった。
若い気はしていたけどもっと気持ち悪い奴を想像していたから拍子抜けする。
クルンとした長いまつ毛で口も小さく、どちらかと言うと可愛らしい顔をしていた。
俺がこいつのオーラを間違うはずはない。
だから動揺を見せない様にそのまま続けた。
「どうして俺の後をずっと付けるんだよ?」
「………」
そいつはあたふたしていて答えない。
相当動揺している様だ。
このままじゃ逃げられるかもしれない。
それじゃ困るんだよと思い、そいつの腕を掴んで「お前日本語はわかるんだろ?」と聞いた。
こいつは俺のストーカー中だっていうのに寒い日は「さむーい」、雨が降れば「あめだーやだー」、ちょっとイルミネーションがある所へ行けば「わーきれい」と独り言が多いのだ。
なんだか変な話し方だとは思っていたけれど外人なら納得だ。
俺に掴まれた腕をマジマジと見て「……はい」と答えた。
心なしか頬が赤らんでいる気がする。
「しずくにさわることができた…うれしい…」
見る見る感極まってきている。
頬は更に紅潮していき、目には涙まで浮かんできていた。
こちらをジッと見つめられる。
ストーカーだってことも男だってことも忘れてしまいそうなくらい可愛らしいと思うけれど、俺は今こいつと一緒になって感動している様なテンションではない。
「おい、大丈夫かよ?」
とっとと本題に入りたいのに話にならなさそうだ。
この少年の雰囲気はいたいけで強く出にくい。
「あなたがすきです。しずく」
そしてそいつは掴んでいる俺の手を取って、手の甲に口付けをした。
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