第四神 失楽園

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「本当に………本当に素敵な学園生活でした。 多くの友人に囲まれ、常にクラスや学校の中心人物として慕われ何不自由なくただの学生を謳歌した3年間。 ええ、きっとこれは私が思い描いていた理想だったのでしょう。 夜の理不尽なんて何一つ知らず、明るい未来だけが待っているとろける程甘い理想郷。 私はきっとこの先も成功し続け、大きな悲劇もなく幸せな女の子として一生を終える。」 アリアの足下から焔が湧き出る。 静かに色付きは薄く、されどアリアの心中を顕したかのようなその焔は地獄の業火のような熱を蓄えこの体育館を───世界を包み込む。 「嗚呼、何と素敵で───反吐が出る。」 アリアの感情に───怒りに呼応し、焔は爆発的に燃え上がり世界を焼き尽くす。 アリアが3年間過ごした学園を。 アリアが3年間共に勉学に励んだ友人を。 アリアが夢見た、ただの女の子として生きる理想を。 全て全て焔の中に消し去り、そして夢から醒める。 「私は、私は………………」 ほんの一時の白昼夢から醒めて戻った先は、親に売られ才能だけで聖女に選ばれ過酷な運命を背負う事を義務付けられた苦しいだけの現実。 ただの女の子として生きた夢と現実との乖離に、アリアは堪えきれず顔を覆い膝から床に崩れ落ちる。 「アリア!!」 逸早く夢から醒めたキスティが駆け付け扉を開けた先に見たのは、 年相応………ではなく雷に震えて布団の中で縮こまる幼子のように泣きじゃくる弱々しい姿のアリアであった。 「先生………………」 名前を呼ばれて顔を上げるも、普段の腹黒さを覆い隠す分厚い笑顔の仮面は付けられず真っ赤に泣き腫らした顔を晒す。 ほんの少し前にその痛みを味わったキスティはアリアの顔を見ないように胸へ抱き締め、背中に手を回し母親のように優しく言葉をかける。 「………………辛かったな。 アタシもやられたから良く分かる。 本当に………あぁ、本当に質の悪い悪夢だ。 夢だと分かっていても、そのまま溺れて沈んで行きたくなる程に。 帰って来れただけ、お前は偉い。 良く頑張った。」 「私が………私はあんなものを…………? ただの学生として、変わり映えのしない日常を過ごす事が私の望み? 違う、そんなの………そんな事私は………………」 「良い、良いんだアリア。 お前の願いは間違っちゃいない。 生まれて来る時代が違えば、お前はただの優秀な学生として過ごしていたかもしれない。 こんな時代に、そんな才能を持って生まれて来たってだけでお前の夢は否定されるもんじゃないんだ。」
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