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「あの目まぐるしい日々があったからこそ、この学園のみならず地域の方や異国の同世代等多くの方と関わる事が出来大変貴重な経験となりました。
私は正直入学当初は部活等にも入る予定はなく家と学校を往復するだけの生活になると思っていましたが、
あの時生徒会室に連行され業務を手伝わされなければこの3年間がなかったと思うと前会長には多少以上の恨みはありますが感謝の念が絶えません。」
再び起きる笑い。
特に原稿や事前に喋る内容を考える事はしなかったが、学園での3年間を思い起こすと自然と口から言葉が溢れ出る。
アリアは激動の3年間にあったイベントを振り返り裏話等を面白可笑しく語り、
共感やまさかの驚きがあるからこそ生徒は大いに盛り上がる。
とても充実した日々。
理想的な学園生活。
10年後も20年後もきっと美しい記憶として心に残り続ける宝物。
キラキラと輝き、陰鬱な影を落とすものは何もない。
だと言うのに。
何故か振り返れば振り返る程に、楽しかった日々にノイズが走り記憶の裏に潜む何かの姿がチラつく。
「その時私は──────」
心臓が痛い程に鼓動が速くなる。
秋も深まり気温も肌寒く感じる程に低くなっているはずが、体が異常なまでの熱を帯び汗が垂れる。
臓物が捻れるような幻痛が走り、胸を物理的に締め付けられているかのように息苦しくなる。
「あれ、会長………?」
「何か苦しそう………………」
「ちょっとヤバくない?」
余り顔には出さないもののアリアの異変は近くで見ていた者には伝わり、ざわめきが起こる。
そのざわめきはアリアの異変が悪化する程に後ろの者達にも伝播し、異常を察した司会進行役が声をかけようとしたその時。
楽しい事ばかりのはずの記憶の奥底に潜む巨大な影の姿が一瞬ではあるがハッキリと見え、
遂に耐えきれなくなったアリアはよろめき後ろの演説台にぶつかる。
「か、会長!?」
近くにいた司会進行役が慌てて駆け付け肩を貸そうとしたが、数秒演説台に寄りかかった体勢で顔を伏せて固まっていたアリアは必要ないと手で制した。
「あの、会長………………?」
起き上がったアリアは先程までの異変は何処へやら、完全に平静を取り戻しステージの中心へと歩く。
当然顔も体も数秒前と何も変わらないはずなのだが、近くにいた司会進行役のみならず壇上を見上げる生徒達も戸惑う程アリアは変貌を遂げていた。
幸せに満ち溢れた誰もに好かれる生徒会長から、王侯貴族のような手の届かない存在になったかのような。
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