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なんで。
僕だって、毎日家で腹筋をしている成果を見てもらいたいのに。ムッとした表情をしていたのか、チロ君は僕の顔を覗き込む。
「見たくない訳じゃないんだけど、その、僕がお腹を見せるのと、藤谷さんが見せるのは違うっていうか……」
「……なんで? 一緒だよ。腹筋自慢でしょ?」
「う、うーん、そうなんだけど……。女の子の肌ってすべすべしてるし、白いから、眩しくて……見るのは恥ずかしいよ。見たくない訳じゃなくて、むしろ、見たいんだけど……あ、変な意味じゃなくって、いや、ちょっと変な意味もあるけど……」
変な意味じゃないのに、変な意味もある。
僕には、少し難しい。
「え? なぞなぞ?」
「ち、違うよ。なぞなぞじゃない。藤谷さん、スカートは気にするのに、なんでお腹は気にしないの?」
「……見てたの?」
「あ、え、その、ズボン脱いでたから、そうなのかなって」
体の奥で火が付いたように、かあっと熱くなる。
気にしていたのを気づかれたのが、恥ずかしい。ハーフパンツを隠した鞄をぎゅっと両手で抱きかかえる。
「あ、ご、ごめん。これは変な事だね。……言っちゃった」
「……学校の中では履いてないから、違反じゃないよ」
「うん、違反じゃない」
「……気にしてるって思われたくないから、黙っててくれる」
「……う、うん」
チロ君は二、三回頷いて僕を見た。
身長が僕より低いから、見上げられているように感じる。
ブラウンの瞳にキラリと朝陽が反射し、彼はにっこりと笑った。癖のない長めの前髪が眉にかかり、サラサラと揺れる。あどけない、柔らかな空気はチロ君特有の雰囲気だ。
緊張している話し方をするのに、相手の緊張を吸い取るような、ぽかぽかする朗らかな笑顔。
「ふ、藤谷さんはそのままがいいよ」
そのまま、ってチロ君が何を感じたのか聞きたかったけれど、自転車置き場に生徒たちが集まり始めたので、聞けなかった。
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