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暮れかけた空がオレンジ、紫、群青色や白と、あとその他のわからない色でグラデーションを作り、陽が陰る。夕方の空はいつも違う顔をしている。自転車置き場はもう暗かった。電気が灯されているが、校舎の陰になっているからか、辛気臭い。
「私達が何したって言うのよっ!」
耳に飛び込んで来た聞き覚えのある声に、ぴたりと足を止めた。
「別にいいじゃない、いじめてる訳じゃないんだから」
「そうそう、チロには関係ないよ」
奥を覗くと、前川さんと同じクラスのバレー部で取り巻きの二人が居た。いつも片付けが終わるとさっと帰る二人を、前川さんが待っているのは知っていたけれど、何だか不穏な雰囲気だ。
盗み見は良くないと思いつつ、好奇心が勝って、こっそりと聞き耳をたてる。
「……ほ、ほ、本人が知らなくても、こんな事、良くないよ」
チロ君の声だ。
よく見ると不恰好な学ランがセーラー服と体操服を着た二人に囲まれている。
「良くない、とか、知らねーよ」
「だって、自分は特別って感じがムカつくんだよ、あいつ」
「そーそー。僕、とか言って、先輩には可愛がられて、先生にも気に入られて」
ひやっとした。
ふくらんだ好奇心はぐしゃっとつぶれる。
「紬って名前自体も男っぽい。僕とか言ってるし、なんなら、男じゃないの」
「それを本人に言ってないし、仲間外れにしてないのに、なんでチロにこのノートの事言われないといけない訳?」
バサバサとノートを前川さんが揺さぶる音がした。
足が小刻みに震え始めた。
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