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「何、してるのっ?」  声も震えている。  けど、前川さんの手は止まった。 「は? 藤谷?」 「帰ったんじゃないの? 恵那(えな)?」  前川さんがバレー部の一人を見ると、彼女は首を何回か振って、知らないよ、と怯えた顔で見た。  四人にゆっくりと近づき、チロ君の足元に散ったノートに目をやる。  表紙には秘密ノート、メンバー以外は禁止と書かれている。  拾って、ページをめくるとマキセンの体格をバカにした言葉や僕の行動がつらつらと書かれていた。  僕って呼んでて、イタい。  スカートが古臭い。  バレー部の先輩に気に入られて調子に乗ってる。  マキセンに可愛がられて喜んでるキモい。 オトコオンナ。  おまけに、トイレと移動教室に誘って断った回数を正の字でカウントしていた。  ページをめくる度にショックで手が震えた。でも、止められない。  僕以外にも、岸辺さんが好きな漫画やアニメについても書いてあった。  中学生にもなってアニメとか漫画とかダサい。音楽もよく分からない、流行ってもいない歌を聴いているの恥ずかしくないのか。  屋島達は本ばっかり読んで何が楽しいのかな。学校じゃなくて家で本を読んでたらいいんじゃないの。それって不登校じゃん。登校してるのさえ気づかれてないのに、不登校でも良くない? 存在が空気。あはは。  自分達のグループ以外の名前はほぼ上がっていた。男子の名前も上がっていたけど、かっこいいかキモいかのどちらかで、チロ君の事については何も書かれていなかった。 「……これ」 顔を上げると、前川さんは、はぁ、とわざとらしく大きいため息を吐いた。 「チロが見つけるからめんどくさい事になった」 「……これ、ひ、酷くない?」  声も手も震えていた。
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