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 視界の隅に、チロ君が紙切れを拾う手が入り込む。 「ぼ、僕が、これ拾っておくから、藤谷さんは先に帰っていいよ」  返事をしないでいると、チロ君は「よいしょっ」と、小さなかけ声をして「前川は……」と話し始めた。 「ま、前川とは保育所から一緒なんだ。……だから僕があやまるのは違うと思うけど……、ごめん」  首を振ると、頬を涙が伝うのが分かって、慌てて袖で拭いた。 「ううん、チロ君は悪くないよ……」 「ま、前川のノートは間違ってると思う。スマホは親に見られるから、メッセージグループで悪口が言えないって、城前小の時もあった。その時は担任の悪口を書いてた。卒業したら無くなると思ってて……、あの時、怖くても止めておけばよかった……」  悪口を見たのは初めてで、怒りよりも、ショックが大きかった。  すべてを否定された気持ちで、この場所から消えてしまいたいと思った。自分の名前が書かれているのが嘘だと思いたかった。 「わ、悪口は、か、悲しいね……」 「う、うん。辛いよね……」  拾い終わると、チロ君は何も言わずに僕の自転車まで付いてきた。鍵を開けても、後ろに居るから、一緒に帰るつもりなのだろうか。  何となく聞けなくて、自転車を押していると、チロ君は「あ、あの……」と、ためらいがちに声を出した。
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