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「……こ、こんなこと言って、どうしようって訳でもないんだけど……、前川は三歳下の弟がいて、その子が僕と同じ、その、多動症なんだ。じっとしてられないっていうか、落ち着かなくて……、どこに居ても、そわそわするんだ」  押している自転車を止めてチロ君を見た。 「多動症? それって病気?」 「え、えっと、薬は飲んでるけど、病気じゃない。落ち着かない病っていうのかな。椅子とかにも座って居られなくて、小学の低学年の時は発達支援教室ってみんなとは別に授業を受けてたんだ」 「でも、今はみんなと一緒に授業を受けてるよね」 「そ、そうなんだ。座っている練習をするようになって僕は教室で居られるようになった」 「座る練習?」 「う、うん。みんなは座りなさいって先生に言われたら座ってられると思うけど、僕は窓の外に蝶々が飛んでたり、雲がいつもより早く流れて行ったりしたら、気になって授業どころじゃなくなって、立ち上がって追いかけちゃうんだ」 「……それは怒られちゃうね」 「お、怒られる。授業も中断しちゃうし、先生にもみんなにも迷惑かけちゃう。でも、三年生の時の先生が、授業は聞かなくてもいいから、まず、自分の好きな歌を頭の中で思い浮かべて、それが終わるまでは座る練習をしようって言ってくれて。そのときから、座って居られる時間が長くなって、今は、みんなと同じ時間、座ってられるようになったんだ」
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