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 そうなんだ、と言葉を吐いて、チロ君を見た。  彼は目を伏せて、だから、と息を吐く。 「だ、だから、僕、同じ多動症の弟が居る前川には言われた事がある。『障害があるだけで、みんなに特別に思われるなんて、ずるい。何もしなくても、周りと違うだけで、注目を浴びてる。私は生徒会長になっても、お父さんとお母さんは弟の事ばかり話す』って……前川は個性があって注目される人が、気になるんだと思う」  チロ君は苦笑いを浮かべ、僕を見た。 「ま、前川のノートは良くない。藤谷さんにした事も酷いと思う。けど、それだけが前川の部分じゃないから、だめなやつ、なんて思わないでほしい。前川もたぶん、戦ってるんだ」 「戦ってる……」  なぜか、胸にすっと入って来た言葉だった。 「……自分、と?」  おそるおそるチロ君に聞くと、こくんと頷いた。 「う、うん。でも、藤谷さんはそのままでも、いいと思うよ。もう戦ってるんでしょ? 僕はみんなと同じ教室で授業を受けたかったから、なりたい自分になるために、戦った」  チロ君は前に向いた。  夕暮れの曖昧な光が横顔を照らす。チロ君は華奢(きゃしゃ)な外見をしている。けど、前を見ている瞳は芯があって、力強い。
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