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自転車に乗って、ペダルを踏む。
夕焼け後の空はまだ赤みを遠くの建物に残していた。
一人になると愚痴ノートの言葉が頭の中で回り始めた。
紬は変。
オトコオンナ。
僕って言ってキャラを作っている。
前川さんから見た僕は普通じゃなくて、普通じゃない事で調子に乗っていると思われている。でも、僕からしたら僕で居ることは普通だ。
普通って何。
性別ってなんだろう。
違いがなく、みんな一緒なら、比べずに済むのかな。自分の持っているモノサシしかなくて、それで他の人を測るのは難しくて、測りきれないし、そもそも僕は僕自身のモノサシをよく分かってない。前川さんの気持ちを考えても、僕はやっぱり前川さんの気持ちは分からない。
だから、想像するしかなかった。
なんで愚痴ノートを書いたのか、なぜ僕の事が嫌いなのか。嫌いなのは仕方がないし、どうしようもない。だけど、嫌われたから、僕も嫌い返すだなんてチロ君の話を聞いて、あまりに幼稚だと思った。
―――戦ってるんだ。
チロ君はそう言った。
戦いは怖い。
先も見えないし、どうしようもない不安におそわれる。人にどう思われているのかを想像するだけで、嫌な気持ちになる。また、否定の言葉を投げられるかもしれない。悲しい気持ちを思い出し、涙が出そうになるのを耐える。
息も絶え絶えな灯りを頼りに、家路を急いだ。家に帰れば、僕と言っても笑わないし、バカにもしない光希ちゃんやお父さんとお母さんが居る。
家を、答えを探すように、早く見つけようと目を凝らす。
少し遅くなってしまった。お母さんは心配しているかもしれない。
朝よりずっと冷えた風が頬をさらう。
ハンドルを強く握って、もう一度、目を凝らす。探せば探すほど、家の灯りはにじんで姿を曖昧にしてしまう。それが悔しくて、早く探せない自分がみじめで、必死でまばたきを繰り返し、灯りを探した。
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