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 あの愚痴ノートの一件以降、僕は前川さんのグループから全く誘われなくなった。それどころか、イジメまではいかないが、存在を無視されるようになってしまった。  どうしたらいいか分からないまま、でも教室の雰囲気を悪くしてしまうのも気が引けたので、なるべく話しかけずに息をひそめ、関わらないようにした。  ゆうちゃんはそんな僕と前川さんの様子の変化に気付いて、前より声を掛けてくれるようになった。ゆうちゃんに誘われて話すうちに、岸辺さんともよく話すようになった。彼女は趣味の幅が広く、音楽やアニメ、漫画、映画もよく知っていた。話を聞いている内に興味がなかった外国の映画のタイトルも少し覚え、何個か家にあったので、観てみた。とても面白く、世界が広がった気がした。絵も上手で、某テーマパークの主要キャラクターは何も見ずに書けると、教科書の脇に描いたイラストを見せてくれた。よく似ており、三色ボールペンや蛍光ペンで書かれたネズミのキャラクターは元祖より派手で、目が誇張されており、面白かった。  ゆうちゃんが岸辺さんと一緒にいる理由が分かった気がした。彼女はサービス精神が旺盛で、自分が知っている事で周りを楽しくさせるのが得意だ。  休み時間の度に岸辺さんが僕に絵を見せるようになったのは、ゆうちゃんが声をかけてくれるようになって二週間ぐらい経った六月の半ばだった。 「見て、これ。つぐちゃんの顔を描いてみた」  ガバッと英語の教科書を広げ、欄外を見るとショートカットの僕が居た。  目が細く、鼻は高いけど、耳は小さい。ちょっとアンバランス。 「イケメンに描けた。つぐちゃんっぽい」  絵を見て、岸辺さんを見上げると、眼鏡の奥の瞳を輝かせていた。
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