3/10

35人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
 四月に入学する中学校は、自転車で三十分以上かかる。晴れている日はいいけれど、雨の日は最悪、らしい。女子の雨合羽(あまがっぱ)はロングコート式で、前をファスナーで留める。その隙間を侵入した雨は、じわりじわりとスカートを濡らす。おまけに、裾がちょうど靴下になるので、合羽を伝った雫は靴下と靴をびしょぬれにしてしまう。  ズボンをはいている男子は女子と違って、上下別の雨合羽で、よほどの雨でなければこんな事にはならない。学校まで気持ちよく(といっても、雨自体でテンションは下がるだろうけど)通学する事が出来るのに、と、光希ちゃんは、何度もそう言った。  ズボンが履きたい、上下別の雨合羽がいい、お母さん車で連れてってよ、と。  なのに、晴れの日は自転車に乗って、スカートをふわりふわりと白い足で持ち上げて、笑顔で学校に行く。  雨の日に、スカートが濡れたことなんて、忘れてしまったみたいに。 「つぐちゃん、制服どう?」 光希ちゃんが部屋を覗く。 「着たよ。長さはこれでいいのかな?」 しぶしぶ着たスカート丈は、膝上だった。 「つぐちゃん、身長が高いから、わたしが着るより短いね」 「うん」 「校則では、スカートは膝下だよ。だから、もう少し長くないと服装検査に引っかかるかも」 「うん」 「……どうしたの? 乗り気じゃないね」  小学校は私服で、毎日ズボンをはいていた。  もちろん、ほぼ光希ちゃんのお古だったけれど、僕が破ったズボンの数が着回せる数を上回って、お母さんは新品のズボンを買ってくれた。そのお気に入りのズボンは動きやすくて、足を上げてもパンツも見えないし、転けても怪我なんてしない。  便利で機能的だ。  なのに。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加