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「え、え、どれどれ。見たい」
隣のチロ君がずいっと覗き込み、距離が近くなる。
心臓がどくんと思わぬ音を立てた。
「あ、似てるっ! 藤谷さんに似てるよ」
チロ君は笑って、僕を見た。
なんだか、ノートの一件以降、正面からチロ君の顔を見る事が出来ないでいた。泣き顔を見られ、悪口を言われていた自分を知られ、情けなく、恥ずかしい。距離を取ろうとすると、チロ君は、ねぇ、と僕のセーラー服の裾を持った。
「え!?」
気持ちの動揺がそのまま口から出たかと思う程、大きな声が出た。
ハーフパンツをはいて自転車を乗っている事を知られてしまった時よりも、もっと熱い緊張が体を巡った。
チロ君との距離を意識している自分がいる。見られていると思うだけで、心をくすぐられたような、こそばゆい嬉しさに逃げ出したくなる。目線が繋がるとそれが伝わるような気がして、見ることができない。
ゆうちゃんが近寄ってきて、びっくりしたぁ、と声を上げ、岸辺さんとチロ君も僕の顔を見て笑った。
「つぐちゃん、驚きすぎ。あ、この似顔絵似すぎ〜。岸ちゃん、クラスの似顔絵描いちゃいなよ〜」
ゆうちゃんが笑っていうと、それいいねぇ、と岸辺さんは腕を組んだ。
「何そのポーズ?」
「画家気取り?」
「変なの〜」
岸辺さんが少しふざけるとゆうちゃんが笑って、肩を叩いた。僕も声を出して笑い、似顔絵をまじまじと見ようとすると、教科書に影が落ちた。
「え?」
顔を上げると、前川さんが僕を見下ろしていた。
今まであの日以来、近づいても来なかったのに、急にどうしたのかと身構えてしまう。
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