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「……何?」
「……ほんと、よく似てる。男か女か分かんない」
吐き捨てるようにそう言い、僕を睨んだ。
何か言わなくちゃ、と口を開こうとすると、空いていた教室の扉にぽってりとしたポロシャツ姿が見えた。
「どうせなら性転換すれば? 藤谷だったら、僕って言って、キャラを作れば、元女のタレントで動画配信とか出来るんじゃないの?」
「……前川、今の言葉はなんだ」
マキセンの低い声に、教室が一瞬にして音をなくした。
前川さんはさっと表情を崩し、怯えたような顔で後ろを振り返った。
「マキセン……」
「性転換とか、聞こえたが、次の保健の授業の話か? それにしては、具体的だったな」
いつもと違うマキセンの雰囲気にクラスの空気が凍りついていくのが分かった。マキセンの担当は保健体育のため、普段から性差でからかう子には厳しい言葉を投げていた。前川さんの言葉がマキセンの逆鱗に触れたのか、視線を外そうとはしない。
「今の言葉を、なんで藤谷に言った?」
前川さんは、えっと、と体制を崩し掛けたが、僕の目をちらりと見た後に、マキセンに向き直った。
「藤谷にスカートが似合わないから、性転換した方がいいって言いました」
ピキッと教室の空気がさらに凍り付いた。
それに亀裂を与えるように、無情なチャイムが校内に響く。
張り詰めた空間は息を吸うのも緊張するほど、かちかちにこわばっている。
「教室の扉を閉めてくれ」
マキセンの言葉が合図のように教室の扉は閉じられ、生徒達は席に着いた。
前川は、あーあ、めんどくさ、と呟いて席に向かった。
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