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「男子、女子、と思春期を迎えたら、異性を気にするのは、本能的に言えば当然の仕組みだと言える。しかし、自分の性別が分からずに体の変化に戸惑う事も多く、個人差もある。それは、身長差や体重差と同じ、みんな違うものだ。性別は特に外見の特徴と、内面が離れてしまうと困ってしまう。なんなら本人にしか分からないし、言わない限り周りには分からない。でも、考えてみたら、生まれてきた時から、みんな、男だ、女だと言ってるだろうか。赤ちゃんが女だー、男だーって言ってるか、前川」  前川さんは返事をしない。  一瞬だけ、マキセンを見て、机に顔を伏せた。 「人は身体の変化と心の変化に応じて、性別を選んでいる。異性を意識して、男らしく身体を鍛えたい、身長を伸ばしたい。女らしく髪の毛を伸ばしたい、顔が可愛くなりたい……人それぞれ自分と他の人を比べて、一喜一憂していると思う。それは、当然な気持ちだと思う。先生も今はこんなに太っているが……」  何人かがくすりと笑い、教室の空気が少しゆるんだ。 「昔はチビでガリガリだった。テレビで相撲取りに憧れて、毎日、ちゃんこが食べたいなんて本気で思っていた。そっちの方がかっこいいと思っていたからだ。でも、実際にはたくさん食べても太ることは出来なかったし、相撲部もなかったから、せめて身長を伸ばすためにバレー部に入った。そして、身体を動かす楽しさを知った。気づいたら、身長は中学卒業する時は学年で二番目だった。筋肉もついた。今は脂肪もついてしまったが……」 「……太ってるけど、マキセンが保体の先生なのは運動が好きだから?」  海堂くんの質問にマキセンは苦笑する。 「そうだ、好きだからだ。男らしく、女らしくなんて、太っている人が運動出来ないのと同じ、イメージ、の問題だ。それを一旦横に置いて、自分らしさとは何か、を考える方が大切だ。相手が自分のイメージに合わないからって、バカにしたり、悪口を言ったりするのは良くない。でも、前川みたいに違いに気づく事は決して悪い事でもない。否定ができるのは自分の考えを持っている人間にしか出来ない。ただ、……伝え方がまずいな」
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