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前川さんはゆっくりと顔を上げた。 「……違うって言ってもいい?」 マキセンが頷くと二重顎が寄った。 「言ってもいい。違う、と思うのは前川の気持ちだ。だが、自分の意見ばかり言わずに、相手の意見をちゃんと聞け。知らないのに、見た目だけでとやかくいうな。中身も外見も全部相手を正面から見て、どう思うか、相手を傷つけない言葉を選んで、話せばいい。揉めるのはそこからだ」  教室がまた静まりかえる。  沈黙を飲むように、前川さんが息を吸った。 「……藤谷、さん」  名前を呼ばれ緊張がはしる。  何を言われるのかと身体がこわばる。 「……性転換は言い過ぎだった。ごめん」  僕は首を振って、いや、と口を開いた。  口の中がカラカラだった。  マキセンの話に僕はずっと緊張していたのだと気づく。僕はひょっとしておかしいのだろうか、そのLGBTQという日本語でもない、説明が必要な人に当てはまるのだと思うと気が気でなかった。  お前は誰ともと違う、と言われることに、すごく怯えている。  男女の枠に当てはまらないから、LGBTQの枠に入れられてしまうのもとても怖い。あなたは男女のどちらにもあてはまらないから、そのどれかに当てはまりなさいと知らない誰かに言われているような気がして。  効率的じゃない、好きでもないスカートを無理やり着さされているようで。  その後は通常の授業に戻り、教室はゆっくりゆっくりと緊張感を無くし、いつもの空気に戻っていった。  終業のチャイムが鳴って授業が終わり、日直が黒板の文字を消しても、目の奥に刻まれたLGBTQという単語は消えなかった。
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